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参考:新型コロナウイルスに対するワクチンに関して

参考:新型コロナウイルスまとめ(医師解説)

ワクチン接種時の注意点

目次

概要 

副作用/副反応 

ワクチン接種後に起きた死亡例報告に関して 


概要

新型コロナウイルスに対するワクチンは、mRNAワクチンという従来とは異なる方法で抗体を作るものとなります。
通常であれば長期成績まで出そろった段階で投与が始まりますが、世界的な蔓延および医療情勢のひっ迫具合から、短期的な有効性と安全性が確認された段階で投与が開始されました。イスラエルでは国家政策としてワクチン投与が実施されていますが、ワクチンを2回接種する事により、PCR陽性者を92%、発症者を94%、重傷者を92%抑制する事ができました。

抗体の有効性がどの程度の期間保たれるのかなど、まだわかっていない部分が多いですが、変異株に関しては少しずつ報告が集まっています。
アルファ株(N501Y変異)は感染力、重症化率が通常より1.4-1.7倍程度高まった変異で、ベータ株(N501YとE484K変異)に関しては、免疫逃避と呼ばれる、免疫抗体の目印となる特徴を変化させ、従来型に感染した方やワクチン接種をした方に感染を起こす事が問題となります。
カタールからの報告では、2021年2月23日-3月18日までの同国での感染は、44.5%がアルファ株、50%がベータ株という状況でしたが、ワクチン接種によりアルファ株を89.5%、ベータ株を75%抑制し、最も重要な点として、重症化率を97.5%抑制できました
2021年7月21日のイギリスからの報告では、デルタ株(L452RとE484Q変異)に対して、ファイザー製ワクチン2回接種で、アルファ株の感染を93.7%、デルタ株の感染を88.0%抑制でき、アストラゼネカ製ワクチンでそれぞれ74.5%, 67.0%抑制できたとされています。
現在国内で新規感染の80%以上を占めるデルタ株の変異株に関しても、高い効果は見込めそうあり、重症病床が枯渇している問題に対しても大きな助けとなりそうです。

一方で、デルタ株はワクチン接種者においても感染時のウイルス排泄量に変わりがなかったという報告もあります。ワクチンによって症状が軽減し、無症候となった方が感染拡大を起こしてしまう可能性が指摘されています。


副作用・副反応

副作用に関しては最も重要なものはアナフィラキシーですが、2021年1月27日に米国疾病予防センターがまとめたものでは、ファイザー社で4.7人/100万人程度、モデルナ社で2.8人/100万人程度となっております。参考として、抗生剤は1人/数千人程度、他のワクチンで1.3人/100万人程度となっており、他のワクチンよりはやや頻度高め、抗生剤より圧倒的に低い頻度となっております。
軽微な副作用は、副反応とも呼ばれています。ワクチン投与後はウイルスに対する抗体を自分の身体が作成するために、身体が風邪をひいたときのような反応を示します。ウイルスが増殖する訳ではないので、おおむね1日程度で収まります。
日本でも医療従事者に対する接種が開始されております。
典型的な副反応の経過としては、投与直後は特に症状なく、当日夜から筋肉痛が出現します。翌日に発熱をきたす方もいらっしゃいます。2回目の接種時には、当日深夜から高頻度で倦怠感、頭痛、発熱などが出現します。翌日夜には症状は軽快し、解熱鎮痛剤がよく効きます。
また、接種した腕に遅れて皮疹が出現する方もいらっしゃいます(初回接種の0.8%、2回目接種の0.2%という報告あり)。虫刺されのような小さな皮疹の場合もあれば、腕全体に広がる場合もあります。海外ではCOVID armと呼ばれており、無害なのでワクチン接種をためらわないように、と啓蒙されています。
ワクチンを接種してから4-11日後、平均すると7-8日目に発生します。一度発生した場合は4-5日間程度持続し、自然消失します。触ると痛みを感じたり、しびれ感があります。特に病院での加療が必要な方はいませんでした。
出現した場合には、2回目の接種は反対側の腕に行う事が推奨されています。

心筋炎に関して

16-19歳の男性において、ワクチン接種後の心筋炎がわずかに増加するという報告がなされました。具体的な数としては、3億2000万人が接種しているアメリカにおいて、475名(0.0005%)、500万人が接種しているイスラエルでは275名(0.006%)報告されています。いずれも軽症で、2回目接種後の方が頻度が高く、平均して4日後に胸痛症状が出現し、自然治癒しています。
一方で、新型コロナウイルスに感染すると心筋炎を発症する事が報告されており、平均19歳の1597人の新型コロナウイルスに感染したアスリートを対象に調べた報告ではその頻度は2.3%でした。
ワクチン接種後の心筋炎は軽症が主体であり、軽症の心筋炎は休んでいれば治癒する疾患です。若年者では新型コロナウイルスに感染した方が心筋炎発症のリスクは高いです。

このため、日本循環器学会は2021年7月21日に新型コロナウイルスワクチン接種後の急性心筋炎と急性心膜炎に関する日本循環器学会の声明を発表し、若年者においてもワクチン接種による利益の方が高いため、接種をためらわないよう啓蒙しています。


ワクチン接種後に起きた死亡例報告に関して

ワクチン接種後の死亡例に関しても触れておきます。数字の苦手な方はこの項目の最後の段落だけを見てください。
2021年4月9日時点で、医療従事者に対し、1回目接種が110万1698人、2回目接種が49万0819人まで終了しております。
ワクチン接種後の死亡例の報告は全数報告されており、計10例です。いずれもワクチン接種との因果関係は証明されておりません。各方のご冥福をお祈り申し上げるとともに、この情報をきちんと生かすことを医療者としての義務と考え、分析します。
接種から1-19日後に発生しており、脳出血が26,61,69,72歳の計4例、誤嚥性肺炎が102歳の1例、急性心不全が65歳の1例、心室細動が51歳の1例、73歳の長期留置カテーテルによるカテーテル感染を起こした方の敗血症性ショックが1例、62歳の溺死が1例、37歳の突然死が1例でした。26歳の脳出血に関しては脳動脈奇形の関与が疑われています。
参考に、日本の突然死の発症率は年間5万人程度と言われており、10万人あたり114-145人という報告があります。内訳では心突然死確定例と疑い例が合わせて20%程度、基礎心疾患を有する方が13%、脳血管疾患17%、詳細不明37%となっています。
年齢性別で分けてみると、10万人あたり年間で、20-39歳では男性8.0-16人/女性3.0-6.4人、40-59歳では男性52-89人/女性17-29人、60-74歳で男性150-370人/女性73-180人と報告されています。
乱暴な計算ですが、20-39歳の突然死の報告から、男女の値を足し合わせて20万人あたり年間11-22.4人とし、ワクチンを接種された方の実数と近似させるため100万人あたり20日間に換算してみると、3.01-6.13人程度となります。40-59歳で18.9-32.3人で、20-59歳で換算してみると10.9-19.2人となります。実際には各年齢層の占める割合も異なるうえ、ワクチン接種後の観察期間は20日を超えているためこの計算にあまり意味はないです。ただ、死亡例報告では60歳以上が7例と多数を占める点から鑑みても、数字としてはワクチン接種によって突然死が増えたと断言できるものはありません。

ワクチン接種をしていない一般の方における、20-39歳の100万人あたりの20日間での突然死の頻度はざっくりと計算すると3-6人、40-59歳で18-32人で、その上の年齢では加速度的に増えていきます。110万人の医療従事者にワクチンを投与した後の突然死の報告が10例(うち60歳以上7人)という数字だけを見て、ワクチンに拒否感を抱くのは避けた方がよさそうです。もちろん脳出血の割合が現時点でやや多いことは注意すべき点ですが。

最後に

ワクチンは新型コロナウイルス感染症に対する現時点における最大最強の武器です。
重症の新型コロナウイルス感染症診療に携わる身として、この疾患の恐ろしさは身に染みて感じています。30代でも重症化しますし、肺後遺症も残し得ます。亡くなることになっても、iPadのリモートで、人工呼吸器に繋がれ、麻酔をかけられて眠っている寝顔を家族に見てもらう事しかできません。
ワクチン接種によって不妊率が上がるデータはありませんし、10年後、20年後への影響を語る方がいても、間違いなくその根拠となるデータはありません。逆に妊婦さんが重症化したら、胎児の週齢によっては胎児治療困難な事態になりかねません。一方で妊婦へのワクチン接種に対する安全性のデータは存在しています。
接種したmRNAワクチンが自身のDNAに潜む事もありません。HIVなどが持っている逆転写酵素という特殊な酵素がなければそもそもmRNAからDNAになることはできません。
ワクチンを接種しない選択肢をとるにしても、デマに流されず、公表された正確な情報を元に判断していただきたいと、一医療従事者として切に願っています。

 

参考文献:

New Eng J Feb 24,2021 DOI:10.1056/NEJMoa2101765
New Eng J Mar 16,2021 DOI:10.1056/NEJMoa2102214
N Eng J Med 2021;385:585-594  DOI: 10.1056/NEJMoa2108891
N Eng J Med 2021;384:693-704
N Eng J Med 2021;384:497-511
medRxiv 2021.02.26.21252554
doi: 10.2139/ssrn.3779160
Jama 2021 published online Feb 12, 2021
Allergy Clin Immunol. 2016;137(3):868-878
厚生労働省 人口動態統計
厚生労働省ホームページ 新型コロナウイルスワクチン接種実績
第56 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会
令和3年度第2回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会
日本循環器学会 心臓突然死の予知と予防法のガイドライン
心電図 2006;26:111-117

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